アーメンブレイク、ヴァージル、ルイ・ヴィトンの関係について。

この記事では、ヴァージル・アブローが生前手掛けたルイ・ヴィトンのコレクションテーマ「アーメンブレイク」について解説します。

※下記のドラムフレーズ=ドラムブレイクのことを「Amen Break=アーメンブレイク」といいます。

※詳しく知りたい方は本文も併せてどうぞ。

※目次もご活用くださいませ。

Music ∞♡ / Jazz / Punk / Rock / Funk / Electronic Music 1984年生まれ。東京在住。

プロフィール詳細

1.アーメンブレイクとは

「アーメンブレイク」とは、下記のとおり、グレゴリー・コールマンが演奏した4小節のドラムソロの事。

アーメンブレイク(Amen Break)とは、The Winstonsの曲「Amen, Brother」内でドラマーGregory C. Colemanによって演奏された、およそ6から7秒(4小節)程度のドラムソロの名称である。

出典:Wikipedia

グレゴリー・コールマンは、ワシントンDCを拠点に1960年代に活動していたファンクバンド「The Winstons」のドラマーです。

なお、「アーメンブレイク」は、「The Winstons」の曲「アーメン、ブラザー」で演奏されたドラムソロだから「アーメンブレイク」と呼ばれており、このドラムソロは、ヒップホップをはじめ、多種多様なアーティストによってサンプリングされ、テクノやドラムンベースなどへ変貌し、多種多様なサンプリングミュージックの源となり、「最もサンプリングされたドラムソロ」としてタイムレスに愛されてきました。

※下記の動画に、「アーメンブレイク」の歴史がぎゅっと濃縮されていますので興味のある方はぜひ。いかにこのドラムソロが歴史的だったのかが、おわかりいただけるのではないかなと思います。

なお、「アーメンブレイク」をサンプリングした最初期の作品が下記のSalt-N-Pepa(ソルトンペパ)による「I Desire」や、ドクター・ドレー率いるN.W.A.の「Straight Outta Compton」。

※下記が「I Desire」。

※下記が「Straight Outta Compton」。

以上のように、「アーメンブレイク」は、アフリカ系アメリカ人文化から生まれ、アフリカ系アメリカ人が醸成し、文脈を参照し再文脈化することで成長を遂げてきた音楽「ヒップホップ」と強い繋がりのあるドラムソロということが、ざっくりではありますが、おわかりいただけたかと思います。

つまり「アーメンブレイク」とは、「アーメンブレイク=アフリカ系アメリカ人のクリエイションが多種多様な音楽を支える構成要素となっており、その構成要素はさらに形を変え、つまり再解釈され、新たなクリエイションを生み出す構成要素でもある」という意味を含むワードなんです。

では、つぎに、本記事のタイトルである、「アーメンブレイク」とルイ・ヴィトンの関係について見ていきましょう。

2.アーメンブレイクとルイ・ヴィトンの関係

というわけで、ここからは「アーメンブレイク」とルイ・ヴィトンの関係について見ていきましょう。

なぜ、「アーメンブレイク」というヒップホップと深い強い繋がりのあるドラムソロの名称が、ルイ・ヴィトンと関係があるのか?

それは、「アーメンブレイク」が、ルイ・ヴィトン2022SS(2022年春夏)のコレクションテーマだからです。

※下記がルイ・ヴィトン2022SSコレクション「アーメンブレイク」のイメージヴィジュアル。

ちなみに、上記のコレクションは、ヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターに就任して7回目のショー(1回目2019SS、2回目2019FW、3回目2020SS、4回目2020FW、5回目2021SS、6回目2021FW)なので、「第七回国際発表大会」の文字がどーんと掲げられているものと思われます。

では、なぜヴァージル・アブローは、2022SSのコレクションテーマを「アーメンブレイク」にしたのでしょうか?

それは、ヴァージル・アブローが「参照・引用=サンプリング」を大切にしてきたデザイナーだからです。

つまり、今回はその「参照・引用=サンプリング」という手法を、あえて明確に「アーメンブレイク」と銘打つことで、「アーメンブレイク=サンプリング文化=新たな価値の創造=クリエイション」というような「クリエイションの本質」と向き合いつつ、さらには、「アーメンブレイク」のように、次から次へと新たに様々なクリエイションを生み、そして変貌していくという「多様性と包括性」を表現しているからでしょう。

※ヴァージルがつくる服の魅力は、「直線・曲線」といったデザインの根本的な構成要素にとどまらず、ストリートカルチャーと建築などで養った感性を、服や着る人の「多様性と包括性」を尊重したうえで、整理しバランスよくまとめる編集力にあると思います。

上記の写真、いずれも、一見シックなカラーリングなのでクラシックなダブルスーツの様に思わせますが、着こなしはワンピースの如くベルトでウエストを大胆に絞り、全体のシルエットは典型的なレディース服の如くウエストを異常なまでに強調させています。

さらには、パンツの裾は、まるでトラックパンツの如くスリットが入り、横アングルから見ると、ほぼジャージの様な体裁。足元にはボリュームがあり色鮮やかなスニーカー(ゆえにそれは、「スーツには革靴」というセオリーから逸脱するスタイリングになるため、結果、違和感を生む。その違和感は「日々の思い込み」を自覚させ、「常識を再考する機会の提案」へ繋がっている)をサンプリングし、既成概念と偏見をゾワゾワと刺激してくるスタイリングになっている。

※下記はルイ・ヴィトンの公式サイトに掲載されているディスクリプション。

「アーメンブレイク」は、サンプリングと再サンプリングを繰り返すアートの本質を象徴しています。それらをファッションに応用し、スーツ、トラックスーツ、シャツ、Tシャツなどの定番アイテムが、終わりのないループの中で再解釈を続けます。

出典:Louis Vuitton

※今回に限らず、ヴァージル・アブローは歴史の中からデザインを「参照・引用、文脈の再文脈化=サンプリング」しきており、歴史に対するリスペクトを忘れず大事に扱ってきたデザイナーです。下記のように、ヴァージル・アブロー自身が創業しデザインを手掛けてきたブランド「Off-White」でも、カラヴァッジョなどのアートや、工業製品のデザインなどを「参照・引用、文脈の再文脈化=サンプリング」しています。

とはいえ、ルイ・ヴィトンに関して言えば、以前まではヒップホップはもちろんのこと、アフリカ系アメリカ人文化との関係性自体は、非常に薄かったと思います。

しかし、時代は変わり、2019年春夏コレクションからルイ・ヴィトンは、アフリカ系アメリカ人であるヴァージル・アブローを、ルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターに起用。

アフリカ系アメリカ人をクリエイティブディレクターに起用するのはルイ・ヴィトンとしてはヴァージル・アブローが初めてのこと。

ではなぜ、ヴァージル・アブローが、ルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターに起用されたかといえば、答えはシンプルで、ヴァージル・アブローのクリエイションをルイ・ヴィトンが求めたからです。

つまり、ラグジュアリーブランドとして世界中に影響力を持っているルイ・ヴィトンは、時代が求めるクリエイションを世界中に届けるためのパートナーとして、ヴァージル・アブローの才能が必要だったのです。

その才能とは、先述したとおり、ヴァージルが積み上げてきた「参照・引用、文脈の再文脈化=サンプリング」する感性と技術ではないかと思います。

そして、ヴァージルは、既成概念や偏見といった人々の「先入観」をデザインに施すことで、「先入観」そのものをあえて自覚させることで、文脈の再文脈化を促し、次のステージに進むための主体的なマインドを呼び起こさせます。そしてそれらのデザインはいつでも遊び心に溢れている。

コレクションに繰り返し登場するモチーフであるレイヴの要素は、今日のファッションが取入れる多くのサブカルチャーを作りあげている異文化間の遺伝子プールの一例となっています。レイヴファッションのアイコンであるトラックスーツには、社会的な偏見が込められています。テーラードスーツと並べることで、ヴァージル・アブローはこの2つのワードローブの定番へのアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を活性化し、中和します。本コレクションでは、特定の衣服に結び付くジェンダーに関する典型的なイメージを取上げ、純粋なる人間としての着こなしのアプローチとして、縦長のラインに焦点を当てています。

出典:Louis Vuitton

3.ヴァージルだからこそのセンス

「アーメンブレイク」をルイ・ヴィトンのコレクションテーマに掲げるデザイナーはきっと後にも先にも、ヴァージル・アブロー以外いないんじゃないかな?と思います。

というのも、アンダーグラウンドカルチャーとも密接に関わってきたヴァージル・アブローだからこそのセンスだと思うからです。

ヴァージル・アブローは、建築、デザイン、アート、DJなど、ファッションに限らず様々な要素を自ら培ってきたストリートカルチャーの中で消化し昇華してきた。

ヴァージル・アブローやディオールのキム・ジョーンズは、誰もが認める現代を代表するトップデザイナーです。

そんな彼らのデザインやアイディアには共通して、アーカイブへの「敬意」があります。

そして、彼らは共通してTOKYOの裏原カルチャーを愛していたりもするため、彼らのデザインには不思議となんだか「懐かしさ」も感じられる。

さらに、彼らは共通して、「懐かしさ」をまとめる編集力=バランス感が、ずば抜けて長けています。

その「編集力=バランス感」こそ、彼らのようなトップデザイナーに求められるデザイン力なのではないでしょうか?

ヴァージル・アブローに関しては下記の「ヴァージル・アブローといえばコレ!【5分で魅力を解説】」の記事もあわせてどうぞ。

今日は以上です。

skでした。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

記事が参考になりましたら幸いです。

深みを増した極上のグルーヴ


グレイテスト・ヒッツ
ワーナーミュージック・ジャパン
グレイトの最上級、それがグレイテスト。必聴だよ。

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